講評ならびに今後の課題

2007第1回メディアユニバーサルデザインコンペティション
審査委員長 伊 藤  啓
(東京大学分子細胞生物学研究所高次構造研究分野准教授)

 メディアユニバーサルデザインコンペティションは、第1回にもかかわらず201もの応募作品が寄せられ、非常に盛況であった。印刷物におけるユニバーサルデザインへの関心の高まりに驚かされると共に、工夫を凝らした作品を応募いただいた数多くの方々に、深い謝意を表したい。
 今回のコンテストは印刷メディア、電子メディア、その他(パッケージ等)の3部門で作品が募集されたが、非常に多岐にわたる内容の応募が寄せられたため、もともとの応募部門にかかわらず類似のジャンル別に細かく分類して、審査を行った。

 選考に当たっては、

  1. 色弱や白内障など、視覚の特徴にかかわらず見やすいものになっているか?(色弱については、各タイプの色弱の審査員が見て、実際に見やすいかどうかを選考の大前提とした)
  2. 色を上手に使っているか?(色を使わなかったり、色数を極端に制限すればよいというわけではない)
  3. 実用性もしくは実現可能性に優れているか?
  4. デザインとして美しいか?

の4点に重きを置いた。

  それぞれのジャンルの中から、そのジャンルの応募数や全体的な作品レベルに応じて、優れた作品数点づつを選び、一次審査とした。二次審査ではこれらの作品を横断的に比較した結果、残念ながら全ての点で最優秀と評価できる作品はなく、最優秀賞は「該当なし」となった。しかし他の多くの優れた作品を、優秀賞・特別賞・会長賞として選考した。また、何らかの点でユニバーサルデザインとして大きな問題を抱えているが、趣旨や将来性を勘案して優れた点が評価できる作品を奨励賞とした。
 このような印刷物が実用に供され、市場で普及すれば、より多くの人にとって親切で分かりやすい印刷物環境が実現できる。このようにしてメディアユニバーサルデザインが広がっていくことを期待している。

 審査の過程で、いくつかの課題が見受けられた。次回以降の応募の際の参考となるので、以下に列挙する。

  1. 短時間に多数の作品を比較検討するコンペティションとしての性質上、たとえ入賞した作品であっても、全ての点でメディアユニバーサルデザインとしての要件を満たしていることが保証されたわけではない。細かい部分で様々な改善が必要とされる場合もあることを理解されたい。
  2. 色覚シミュレーション画像を掲示している作品で、シミュレーション結果が実際と大きく異なってしまっているものが散見された。シミュレーションは色空間やカラーマネジメントの設定等によって大きな影響を受けるので、注意が必要である。
  3. 文字やサインと背景のコントラストに関して、配慮が十分でない作品が多かった。特に白内障や弱視ではコントラストの確保が重要なので、十分に考慮する必要がある。
  4. 配慮が片手落ちになっている例が数多く見受けられた。「目が見えない人むけにSPコードを付しているのに、その存在を示すための紙端の切り欠きがない」「地図中の文字だけに点字を貼ってあるが、地図自体が触地図になっていないので利用価値がない」「色が分かりにくいのを形で識別できるように工夫しているのに、色自体が極めて紛らわしい配色になっている」等々。ユーザーが実際にどのように使用するかをイメージしながら、細部までよく検討することが望ましい。
  5. UDフォント(イワタ社)を用いた作品が多数見られたが、必ずしも視認性の向上につながっていないものが多かった。可読性の向上は特定の書体を選べば実現できるわけではなく、字の大きさや色、背景の状況、レイアウトなどを総合的に工夫することが大切である。
  6. 制作者自身が決めた配色ルールと、実際の線や文字の色がところどころ違っているなど、単純なミスが見受けられた。校正には万全を期す必要がある。
  7. デザインとしての質の高さやまとまりという点では、高く評価できる作品は多くはなかった。デザイナーのみを対象としたアートのコンペではないという面はあるが、次回以降は一層の質の向上に期待したい。
  8. 電子媒体を用いたマルチメディアは、応募数も少なく、他のコンテスト等に比べて質も高くなかったので、今後に期待したい。
  9. 利用されている図版等に、無断引用と見受けられるものがいくつか見られた。啓発目的であっても著作権は重要であるので、きちんとした事前の許諾が必要である。

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