講評ならびに今後の課題

2009第3回メディア・ユニバーサルデザインコンペティション
審査委員長 伊 藤  啓
(東京大学分子細胞生物学研究所)

 第3回のメディア・ユニバーサルデザインコンペティションは過去2回と異なり、NPO法人メディア・ユニバーサル・デザイン協会としての積極的な作品応募の告知は行わなかったにもかかわらず、前回よりは少ないが173点もの作品が集まった。ユニバーサルデザインへの関心が幅広く浸透してきていることの表われであると考えられる。回を重ねるごとに全体的な作品の質も高くなってきており、特に、以前は見受けられたような明らかにデザイン上の問題点を抱えた応募作品が非常に少なくなった。これは、コンペティションの継続的な開催を通じてメディア・ユニバーサルデザインへの理解が広がるだけでなく、技術的なレベルの底上げも進んでいることを示している。印刷に携わる幅広い人たちの技術向上や制作物の価値向上に寄与できていることは大変喜ばしい。
 私たち現代人が日常生活で目にするもの、身の回りにあるものの多くは、何らかの形で印刷が施されている。印刷は私たちが生活する環境の快適さを大きく左右する非常に大きな要因だといえる。エコロジーやゴミの分別など環境への配慮が重要視される現代社会において、印刷物も生活環境の一翼を担う要素として、ユニバーサルデザインによる快適性を追求することがますます大切になっている。

 前回同様、審査に当たっては応募作品を類似のジャンルごとに細かく分類して比較した。また選考に当たっては、
 @色弱や白内障、弱視など、視覚の特徴にかかわらず見やすいものになっているか?
  (色弱については、各タイプの色弱の審査員が見て、実際に見やすいかどうかを選考
  の大前提とした。)
 A色を上手に使っているか?(色を使わなかったり、色数を極端に制限すればよい
  というわけではない。また、形や模様の違いなどで見分けやすく配慮されていれば、
  色の使い方はある程度自由でよい。)
 B実用性もしくは実現可能性に優れているか?
 Cデザインとして美しいか?
 D実際の使い勝手をよく考慮しているか?
 E新しい創意や工夫が見られるか?
の6点に重きを置いた。
 
 それぞれのジャンルの中から優れた作品数点を選び、一次審査として数分の一に絞り込んだ。二次審査ではこれらの作品を横断的に比較し、多くの点で優れた面が見られた作品を優秀賞、多少課題はあっても趣旨や将来性を勘案して優れた点が評価できる作品を佳作とした。さらに優秀賞の中から、特に優れたものを最優秀賞とした。また、20歳前後の学生の応募であるにもかかわらず、過去3回連続して一般部門の最優秀作品に匹敵するレベルの極めて優秀な作品を輩出している山口芸術短期大学に、審査員特別賞を授与することに満場一致で決定した。
 上位の作品のレベルは大変拮抗しており、優秀作品の選定は難しかった。しかしその一方で、飛び抜けた作品や、新たなチャレンジやあっと驚くような試みがなされている作品が少なめだったのが多少気になった。コンペティションが回を重ねることによってある種の定型的な文法が出来てきてしまい、「ユニバーサルデザインに配慮するためにはこうすれば良い」と、型にはめて作成しているように思われる作品が多く見受けられた。これはユニバーサルデザインが一部の人によるチャレンジでなく、各企業の普段からのルーチンな取り組みへと進化していることの表われであり、本来は大変良いことである。しかし一方で、コンペティションへの応募作品としては少々物足りないというのも事実である。このコンテストは一定の基準に達したものを認証するのが趣旨ではなく、ユニバーサルデザインを実現するための新しい発想や従来にない工夫を、また結果だけでなく熱意や努力を評価するのが大きな目的のひとつである。型にとらわれずにさまざまな分野の、さまざまな作品が今後も出てくることを期待したい。

 今回は学生の部と一般の部を分けて審査を行ったが、学生部門では発想が面白く、今後の可能性を期待できる斬新な作品があり、心強かった。特に、視覚だけでなく手触りなど他の感覚も加えた、五感で良さを感じ取れるものがいくつも見受けられた。技術的に難しいことではあるが、目だけでなくもっと五感に訴えることができる商品をオフセット印刷で提供できる仕組みづくりができると良いと感じる。
 昨年度も指摘したが、フォントの使い方ではUDフォントを使えばユニバーサルデザインに配慮できたと考えられがちな面が今年も感じられた。ユニバーサルデザインへの配慮が官公庁などの制作物で重要視されるようになる中で、UDフォントの使用がセールスポイントになっている面は否定できない。しかし文字の見やすさはデザインとの調和が重要であり、そこがクリアされれば必ずしもUDフォントにこだわらなくても良いし、調和が悪ければUDフォントを使っても見づらいものになってしまう。最近になって、各社からさまざまなタイプのUDフォントが発売されるようになった。それらはサイン用・本文用などの使用目的や、一般の人への見やすさを重視するか視力が低い人への見やすさを重視するかなどの設計思想において、いろいろな違いがある。今後はUDフォントの上手な使い分けも重要な要素になってくるだろう。
 
 入選作品に選ばれたような印刷物が実用に供され、市場で普及すれば、より多くの人にとって親切で分かりやすい印刷物環境が実現できる。受賞された方々は、ぜひ作品を実際に市場に出せるように努力し、すでに市場に出している方はさらに普及を促進できるようにご尽力いただけるとありがたい。



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