入賞作品

最優秀作品 (グランプリ)

作品名:福島市「指さし会話板」
NPO法人 ユニバーサルデザイン・結(ゆい)
株式会社日進堂印刷所(福島)

〔工夫点〕

 市役所・支所の窓口にいらした市民の方(特に、聴覚障がいの方、高齢者の方、外国人の方、コミュニケーションのとりにくい方)が、指さしながら用件を少しでもスムーズに済ませられるようにと作りました。支所の窓口担当職員の方々と案を練り、試作品で聴覚障がい者の方と模擬体験をくり返し作りました。窓口業務の導入部分で使用し、筆談メモと併用することでコミュニケーションを図ります。ボードの配色の際には色覚障がい者へも配慮しました。

〔審査委員長講評〕

 役所などの公共機関の窓口に配備して、文字や記号を指さしてコミュニケーションできるようにした会話版。日本人で耳が聞こえない/言葉がしゃべれない人だけでなく、日本語が上手に使えない外国人向けに英語・中国語・韓国語も表記されているため、通訳のかわりとしても利用できるようになっている。これによって、単なる「障がい者向けの福祉機器」でなく、これひとつで様々なユーザーのニーズに応えられる、ユニバーサルなコミュニケーションツールになっている。
 
収録された文例や単語は、実際に役所の窓口担当者と細かい議論を重ねて、必要なやりとりの種類ごとに整理された、極めて実用的なものになっている。文例と合わせて周囲に数字や単位記号の枠を配して金額などのやりとりを可能にしたり、説明が難しい印鑑や免許証などの各種書類は実物の写真を掲示するなど、様々な工夫を施している。さらに、この会話板一式とメモ帳をビニール袋に詰めた配付用セットを作成し、これを関係機関に配るだけで効果を発揮できるように工夫されている。総じて、現場の利用状況や利用者のニーズを深く考えた、非常に完成度の高いものになっており、ぜひ全国的に普及して欲しい。
 
さらに改善できるとすれば、日本在住者の数では英語圏の外国人よりもむしろ数が多いブラジル系の人にも配慮して、英語だけでなくポルトガル語も収録するとよいだろう。

最優秀作品 (グランプリ)
作品名:洪水ハザードマップ
カラーユニバーサルデザイン エキスプレス
國吉 由美・小粥 将直(千葉)

〔工夫点〕

 配色・文字・大きさはMUDに配慮しています。情報の二次的伝達手段として音の出る印刷物にしました。地図内の“京華高校”“京華小学校”に避難する区域にはスクリーンコードを配し、音声を使っても情報を提供できるようしました。これにより色覚障がい者だけでなく、高齢者や弱視・子供でもわかるようにできました。また、印刷資材も耐水性があり、かつ非木材(石の紙)を使うことでCO2をほとんど排出せず安価に制作できました。

〔審査委員長講評〕

 ハザードマップは視覚のタイプに関係なく、全ての人に情報を正しく伝えるという使命がある。通常の地図の上に、災害の予想状況に応じた塗り分けや避難場所、避難経路の情報を重ねる必要があり、しかも普段はあまり関心を持たれず、実際に災害が起きた緊急時になって初めて、停電などの不十分な照明環境の下で目を通す人も少なくないという利用状況を考えなければならず、非常に難易度の高いデザイン媒体である。このハザードマップは耐水性の高い石素材の紙を使って水濡れに対応している。また洪水のレベルに応じた色分けが、色弱の人にも分かりやすいように色調を調整するとともに、微妙な濃淡の網掛けを施すことで、色が分からなくても区分けが明確に区別できるようになっている。このようなハッチングは、あまり強すぎると全体がゴチャゴチャして分かりにくくなってしまうが、濃淡を抑えた網掛けにすることによって、ぱっと見には色の違いだけが目に入るように工夫されている。また、多くのハザードマップが避難場所を記号だけで示しているのに対し、地区ごとの避難場所を大きな矢印で分かりやすく示し、しかも矢印の周囲には白フチを入れて、赤い色が分かりづらい人にも分かりやすくしている。
 さらに新しい試みとして、印刷のスクリーンに文字コードを埋め込むことで、紙面をなぞるだけで音声による案内もできるようにしている。これは読み取りに専用の機材が必要な点や、そもそも音声案内が必要な目が見えない人には、紙面のどこをなぞればどのような情報が得られるのかが分からないという問題があるなど、いくつかの課題を抱えている。しかし地図のように紙面がすでに情報で埋め尽くされ、SPコードなどの音声案内用表示を印刷する場所がないという媒体においては、音声を紙面に重層的に埋め込む方法として今後いろいろと工夫を重ねてゆく価値がある。

優秀作品 (準グランプリ)
作品名:リコー北海道株式会社 CSR報告書
株式会社プリプレス・センター(北海道)

〔工夫点〕

 印刷方法及び用紙に環境配慮を考えて、VOCの大豆油インキを使って、印刷時や印刷板の作成時には有害物の廃液量や使用量が圧倒的に少ない「水なし印刷」という印刷方式で印刷。紙は再生紙(R100)を使用しました。
 デザインの観点では、CSR報告書は資料性を持った図表が多い内容となっているためさまざまな線や文字を使っており、多様な色覚を持つさまざまな人に配慮して、なるべく全ての情報が正確に伝わるように見る側の視点に立った色づかいを考えた「カラーユニバーサルデザイン」を起用しました。
 北海道の企業ということで、北海道を象徴する動物をモチーフにして、環境配慮を想像させる自然保護のカラーである緑色をメインカラーとし、全体的なデザインに統一感を持たせために各章のタイトルに動物を利用するなど、見る方全ての方にとって見易いデザインに作り上げています。

〔審査委員長講評〕

 会社の活動や社会貢献を説明するCSR報告書は、年1回の発行で製作工程に余裕があり、株主への重要な情報提供として分かりやすい説明が要求されることから、ユニバーサルデザインの対象として近年多くの企業が力を入れている。文字や全体のレイアウトの配色、項目ごとの見出しの配色、さまざまな表やグラフなど、多数のデザイン要素をまとめる必要があって難易度も高い。また、デザイナーによる試作提案の段階でなくすでに実地に使用されている製品であるという点で、ユニバーサルデザインとしての意義も大きい。いくつかの作品が応募されたが、それぞれのデザイン要素で最も完成度が高く、問題になるような点が見られなかったのが、この作品であった。
 他の作品では、より見やすい配色やデザインをクライアントに提案したが受け入れられず、改善できなかったという例があった。試作品でなく実際の製品のデザインにおいては、このようなクライアントとの意見調整も重要な要素になる。これからの制作者にはデザインの腕前だけでなく、ユニバーサルデザインに対して必ずしも十分な知識と意識を持っているとは限らないクライアントに対して、どのようなデザインが望ましいかを説明して納得していただくための能力も重要になってくると思われる。

優秀作品 (準グランプリ)
作品名:かんぽの宿パンフレット
大兼印刷株式会社(大阪)
山本 順也

〔工夫点〕

 表紙のビジュアル(写真等)も障がい者にも健常者にも相違ない印象を与えるように、特に色に関しては旅行のパンフレットの性質上、季節感も共にイメージをわかちあえるものにしました。表4の地図には特に配慮し見た目以上にリズム感をもたせました。中面のカレンダー部分はスペースは小さいもののその範囲で休日など区別でき、しかもゴチャつかないようにしました。

〔審査委員長講評〕

 観光パンフレットは、報告書やカタログと並んで難易度の高いデザイン対象のひとつである。地図、交通案内図、日によって変化する利用価格を塗りわけたカレンダーなど、それぞれが単体でも応募作品になりうるようなデザイン要素を、全てきちんと制作して組み合わせる必要がある。キャッチフレーズや解説の文字は無地の背景でなく、カラフルな写真の上に表示されることが多い。文字と背景が紛らわしくならないように配色やデザインに配慮したり、デザインがうるさくならない範囲で上手に文字に縁取りを施したりするなどの工夫をこらす必要がある。この作品は実際の旅館のパンフレットにおいて、細かい工夫の積み重ねによって従来のデザインを見やすく改善したもので、類似の作品の中でも特に完成度が高かった。

優秀作品 (準グランプリ)
作品名:AEDポスター
相互印刷工芸株式会社(東京)
谷口 絵里

〔工夫点〕

 オレンジや赤一色ではどうしても障害者の視点では目立ちにくくなってしまうので、2色使いにしてコントラストをはっきりさせ、より目立つようにしました。
 
色覚障害者には比較的認識しやすい青色を重要な部分に使用する事で健常者・障害者ともに必要な情報を読み取りやすくしました。
 
発見者が日本人とは限りません。日本語が読めなくても行動できるように、A4・B2ポスター(左側)では大まかな順序を英語・中国語   韓国語で表記。B3・B2ポスター(右側)では、イラストだけで心肺蘇生の方法がわかる様に簡単なイラストでわかりやすいように描きました。

〔審査委員長講評〕

 AEDが公共空間に広く設置されるようになって数年が経つが、設置場所を示すサインが不適切で目に留まりにくい場合が少なくない。しかも、設置してあることを示すサインがあるだけで、AEDをどのように使うかは実際に機械のフタを開けてみないと分からない場合が多い。これではいざという場合に、通りすがりの人が適切にAEDを使うことができない。このように、せっかく便利な施設を整備しても、それをいつ、どのように使うかが適切に案内されていないためにいざというときに役に立たないという片手落ちのケースは、公共空間には数多く見られる。このポスターはその点を解決するための提案である。いやでも目に飛び込んでくる派手な色彩のポスターに、実際のAEDの使い方を絵と文章で分かりやすく示している。使い方は文章を読まずに絵だけでも十分に分かるように工夫されており、日本語が分からない外国人にも効果的である。ぜひこのような分かりやすい案内が普及すると素晴らしい。
 
人通りが多い通路の壁や、逆に人ごみから遠い施設の端などに設置しても人目を惹きやすくすることを目的としているため、オフィスなど特定の人が長時間滞留し、そのポスターがずっと視野に入ってしまうような環境では、色彩が派手すぎて貼るのをはばかられる場合も考えられる。通路等では派手な色彩が有効で、そちらを貼ることが望ましいことを説明した上で、室内用にもう一段おとなしい配色のバージョンも作っておくと、選択肢が増してよいかもしれない。

優秀作品 (準グランプリ)
作品名:MUD花札
山口芸術短期大学(山口)
松本 香織

〔工夫点〕

 パネル2での提案「今の花札を色覚が不自由な人や花札になじみが薄い人に使ってもらう」
 ・色覚障がいの方でも楽しめるような工夫
  (色の調整やセパレーションなど)
 ・配色が変ることや背景にパターンを加えることにより健常な人に違和感がないように配慮(パターンは日本の伝統的な文様を参考にイメージを損ねないように意識した)
 パネル3での提案「誰でも使用できる花札」
 ・絵を見て楽しいものであること
○高齢の方、白内障の方にも描いてあるものがはっきりと分かるように、モチーフをシルエットで際立たせる(健常な人も見やすい)
○札に描かれているものが何であるか、分かりやすいように形をかえる(初心者、子供、外国の方を意識)
 ・ゲームの進行がスムーズに行えること
○得点ごとに札に特徴をつける
(背景を黒くしたり、動物をシルエット化したり)
○月ごとの4枚の札が同じ種類だと分かりやすくする(二つの月が似たような絵柄の場合、変更するなど)

〔審査委員長講評〕

 山口芸術短期大学は第1回コンテストに出品したカレンダーで惜しくも最優秀賞を逃しているが、今年も花札の全図柄を工夫するという大作で、最優秀に近い極めて高い評価を得た。花札は日本を代表するカードゲームで、本来はトランプに匹敵する人気を持ってよいはずであるが、ルールのわかりにくさと禁制が繰り返された賭博絡みの悪い印象から、普及が損なわれてしまっている。本作品はこの点を改善して日本古来のカードゲームの再普及を図る試みになっている。
 花札は四季の12ヶ月と花鳥風月を組み合わせた合計48枚の札を使用するが、単純な記号と数字で構成されたトランプに比べると図柄の相関が分かりにくい。この花札では、それぞれの月ごとに特徴的なデザインパターンを共通して使用することによって、4枚の組み合わせを分かりやすくしている。さらに各札のモチーフを単純化して分かりやすい形に調整し、見分けづらい配色についてはグラデーションカラーや境界線を加えることで、見やすく工夫している。各札のデザインの完成度、工夫点を示した解説ポスターのプレゼン資料としての完成度と美しさ、どちらをとっても極めて質の高いもので、ぜひ製品化できると素晴らしい。
 同じ作者がもうひとつのアプローチとして、従来の花札と全くちがうデザインをモチーフとした作品も提案している。これはデザインとしての完成度は高く、新しいゲーム札として高く評価できる。しかし従来の花札とはあまりにも図柄が違うため、すでに花札のルールに通じている人には違和感があり、初めて接する人にも馴染みにくいという中途半端なものになってしまった感は否めない。トランプの4つのマークを全くちがう形に変えてしまうと分かりにくくなってしまうのと同じで、すでに普及しているデザインに関してはなるべく全面的な変更をするのでなく、細かい工夫を重ねることで分かりやすさを改善した方が効果的であろう。

優秀作品 (準グランプリ)
作品名:2009年 大村印刷卓上カレンダー
大村印刷株式会社(石川)
大村 一史

〔工夫点〕

 一般の人はもちろん、弱視者、色覚障がい者、および高齢者にもわかりやすいようカレンダーの玉の色や大きさ、配置などへの配慮。基本的に線画を使い、はっきりと色分けしたイラスト。
 常時、目の前におき、多くの人が見るカレンダーなのだから、まずは誰もが好き嫌いなく楽しく使えるデザインであることを心がけています。例えば、曜日を漢字とし大きく表示、土・日・平日の色分けは、はっきりと。つながったように見せた連休の玉。無理をしない日常をユーモラスに表現させたイラストとカレンダー部分のイメージのリンク。多くの人が使いたいと思うことも、UDの基本と考えています。
 今回は当社が配るカレンダーとして、巻頭にUDの解説を入れています。あえてレインボーカラーを取り上げ、これをどう見せるかをテーマとしました。

〔審査委員長講評〕

 今回はカレンダーを独立した部門として募集したため、全体の1/3を越える作品がカレンダーに集中し、熾烈な争いとなった。本作品はその中で、はっきりした色合いを使って平日・土曜・日祭日の区別を明確にしつつ、曜日・日付・六曜といった情報をなるべくシンプルに表示することで、全体のデザインをすっきり見やすく仕上げている。底を広げて三角形にして立てる卓上型カレンダーは表と裏の両面を見ることができるが、通常はその一方しか利用されていない。このカレンダーは両面を活用することによって、それぞれの月に対してオモテ面にはシンプルなイラストを添えたポップなデザイン、ウラ面にはそれぞれの日にメモ用のスペースを取った実用的なデザインという2種類を用意し、必要に応じて簡単に使い分けられるようになっている。ウラ面では日付の枠の部分の形を工夫することで、メモ用のスペースを残しつつ土日祝日の違いを分かりやすくしている。
 
巻頭にはUDの簡単な解説を入れて啓発を図っているが、たとえこの解説がなくても、ユーザーの使いやすさによく配慮した優れたデザインと言える。

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