講評ならびに今後の課題

第4回メディア・ユニバーサルデザインコンペティション
審査委員長 伊 藤  啓
(東京大学分子細胞生物学研究所 准教授)

 スケジュールの関係で、第4回のメディア・ユニバーサルデザインコンペティションは前回からわずか半年後に募集されることになったにも関わらず、前回を上回る215点もの作品が集まった。技術的なレベルは総じて高く、このコンペティションはすでにユニバーサルデザインの基礎的な技術ができているかを競うのではなく、デザインの完成度の高さや、従来なかった新しいデザイン発想を競う場へと変貌しつつある。上位の作品のレベルは大変拮抗しており、優秀作品の選定は難しかった。

 今回は一般の方々の作品が学生の方々の作品に比べておよそ3倍の応募があったが、いざ審査をしてみると、学生部門の作品の方がおもしろい発想や素晴らしいアイデアを持つ、魅力的なものが多かった。既成概念にとらわれずに独創的な発想ができる、若手の人材の優秀性が感じられる。ユニバーサルデザインはどことなく均一化・画一化といったマイナスのイメージを持たれることがあるが、新しい着想に基づいたデザインを創ることが実際にはいくらでも可能であることを、学生たちの元気の良い応募作品たちが力強く物語っている。日本の印刷・デザイン業界の将来に明るい期待が持てる一方、このような学生たちが就職したのちも柔軟で独創的な発想を活かしてゆけるような業界の環境作りが望まれる。
 これに対し一般作品は、ユニバーサルデザインの基本的手法を使いこなして着実に見やすさを確保する堅実な作品が多くを占めるようになり、ユニバーサルデザインがもはや基本的な技術として定着しつつあることを物語っている。これは素晴らしいことである反面、より多くの人にさらに分かりやすく情報を伝えるためのさらに新しいデザイン技法を、プロとしての豊富な経験を活かして開発し、提案してゆくことも、今後の応募作品には期待したい。

 ソフトや液晶モニター、メガネなどを利用した色の見え方のシミュレーションが容易にできるようになってきたことで、一般の印刷物ではまだまだ問題が多いものの、少なくともメディア・ユニバーサルデザインコンペティションの応募作品では、色づかいに極端な問題のあるものは少なくなってきた。しかし、「色」で解決することに重きをおくあまり、「付加情報」による解決方法を疎かにしがちになっている感もある。カラー印刷が普及する前は、形や塗り分けパターンの違い、書体の違い、デザインの工夫などによって、スミ一色でさまざまな情報をうまく伝える技術がとても発達していた。カラー化した途端に、百年を越えるせっかくのこの技術的蓄積が雲散霧消してしまっている感がある。色は形による情報伝達を置きかえるものではなく、形で十分に情報を伝えた上で、さらに分かりやすさを増すために加えるものだと考えた方がよい。カラーの既存デザインをベースに、この色をどう再調整しようかと考えるのでなく、むかしの白黒デザインを再度取り出して、これにどのように色をつけようかと考える方が、誰にでも見やすいデザインを作れる可能性がある。
 また、白内障の人や高齢者、弱視の人など、視力が低い人への配慮はまだまだ不十分である。なるべくシンプルなデザインで、コントラストを十分に確保し、図と文字を分かりやすく配置する必要がある。UDフォントの使用が増えてきたが、字送りや行間の調整を怠ると見やすさは全く向上しない。イラストや色付き背景の上に文字を重ねるときに見やすさをどう確保するかも、さまざまな工夫の余地がある。

 応募作品の中で着実に増えつつあって今後の重要性が期待されるのが、多言語への対応である。ワールドカップでブラジル出身の選手が日本の活躍の柱になったように、韓国語・中国語・ポルトガル語・英語などを母国語とする人が日本には多数居住し、「お客さん」ではなく日本の経済活動をともに支える「仲間」となっている。しかし残念ながらコミュニケーションの不足による誤解が、無用な行き違いを生むことも少なくない。ほとんどの人は何カ国もの言葉をしゃべることができない以上、印刷物で多くの言語をカバーすることは、生活に必要な情報を共有するために不可欠な手段になってゆくであろう。
 最近では中国や韓国などのアジア諸国でもユニバーサルデザインに配慮していく機運が高まっている。ユニバーサルデザイン先進国の日本としてはこれらの国へのさまざまな立場の人へ、ユニバーサルデザインの考え方の浸透を図ることも重要である。多言語化したユニバーサルデザインは、このためのよい見本にもなるだろう。

COPYRIGHT(C) 2001 全日本印刷工業組合連合会